服の消費とわたしたちの暮らし ~ものづくりの現場からの警鐘~
- No.:
- 第6回東京服育研究会定期セミナー
- 日時:
- 2017年12月1日(金)18:00-19:30(映画上映は16:20~)
- 場所:
- アキバプラザ6F(セミナールーム1)
- 参加費:
- 無料
- 主催:
- 東京服育研究会
- PDF:
- 定期セミナー詳細
セミナー/服の消費とわたしたちの暮らし ~ものづくりの現場からの警鐘~講師:茨城大学 准教授 長田華子
1.ものづくりの現場(海外)/バングラデシュの事例
日本国内で私たちが購入する衣類の97%は輸入品(2014年時点)です。その内の最大の割合を占めているのは中国製ですが、近年、中国における人件費高騰に伴い他のアジア諸国からの衣類輸入の割合が年々大きくなっています。
そのひとつが南アジアの国、バングラデシュ(「ベンガル人の国」という意味)です。
バングラデシュからの衣類の輸入量が飛躍的に伸びている理由には、①豊富な労働力(特に若年層が多い)、②他国に比べ圧倒的に安い賃金、③縫製産業の発達があげられます。バングラデシュでは、グローバルなアパレル企業の多くの服が生産されています。
その服の生産工程は多岐にわたります。例えば日本で990円という安値で販売されているジーンズは、縫製工程だけでも66工程(報告者による調査)あります。バングラデシュではほぼ1人の縫製工員が1工程を担当しているため、補助工員(縫製工の補助役)をも含めると総勢70人(その大半が女性)の手がかかわっていることになります。それにもかかわらず、990円という価格で私たちが購入できているのは、縫製工程に従事する労働者の大半が「女性」であることに起因するでしょう。縫製工場で働く女性達の賃金は男性に比べて低いにもかかわらず文句を言うことなく、かつ「手先の器用さ」に裏付けられた生産性の高さ故に、990円という価格の安さを実現しているのです。
こうした中で、2013年4月、バングラデシュで5つの縫製工場が入っていたラナ・プラザというビルが崩落し、1137人もの尊い命が失われました。崩落前からビルには大きな亀裂が入り、警察は翌日の操業中止を勧告しましたが、5つの縫製工場だけは操業を強行しました。崩落した建物の中から欧米のアパレル企業のタグが発見され、その責任を問う声が高まりました。私たちは、先進国企業と途上国企業との間には非対称な権力関係があること、バングラデシュの企業や政府は、先進国企業の圧倒的な権力に従わなければならない状況を十分に認識すべきです。
2.ものづくりの現場(国内)/岩手県県北地域、福岡県八女市の事例
国内供給量のうち日本製衣類がわずか3%という現状の中で、日本国内で操業を続ける工場について考えてみましょう。いずれの地域でも、縫製工場は女性にとって重要な職場として機能しています。縫製工場の集積地の1つとして知られているのが岩手県県北地域です。私は2012年から岩手県県北地域の縫製工場で働く女性たちにインタビュー調査を実施してきました。
また、今回のセミナーでの報告にあわせて、福岡県八女市にある学校制服の縫製工場(株式会社キューテック)を訪問しました。工場で働く女性たちにインタビューすると、「30年間この工場で働いて、仕事をやめたいと思ったことは一度もない」「女性が多い職場なので子育てしながらでも働きやすい」などの声が聴かれました。服を縫うということに喜びと責任を感じながら仕事に取り組んでいる様子は印象的でした。
一方で、縫製工場の状況は厳しくなるばかりです。縫製工場での仕事は技術職でありながら、その「技術」に対する貨幣評価はきわめて低く、結果、深刻な人手不足を招いています。技能継承も進まず、このまま放置し続ければ数年後にはさらに多くの工場が廃業するでしょう。
3.服の消費とわたしたちの暮らし
本日のセミナーでは、私たちの服の消費が服の生産地にどのような影響を与えているのか、服作りの現場から見てきました。
バングラデシュ、日本の服作りの現場では、多くの人々が犠牲になり、疲弊しています。
私たちは、身近な服を通じて消費者としてどのような行動をとるのが望ましいのか、そしてものづくりに携わる人々にも恩恵が行き渡るよう考えることが大切です。未来を担う子どもたちにこそ、こうした大切さを伝えていかなければなりません。
参加者のご感想
- 大変貴重な映像や話を聞くことができました。生徒はもちろんですが、大人にも伝えていきたい。人権教育の場でも示していきたいです。(高等学校教諭)
- 家庭科教員として改めて子ども達に正しい判断力を育て、行動するための(よくないものは買わない、直して着る技術など)をつけていくことは
重要だと感じました。(高等学校家庭科教諭)
講師のご紹介
- 長田 華子
- 茨城大学人文社会科学部 准教授
茨城大学人文社会科学部准教授。専門はアジア経済論、南アジア地域研究、ジェンダー論。1982年生まれ。2012年3月お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科修了(博士:社会科学)。2013年日本学術振興会特別研究員(PD・東京大学社会科学研究所)を経て、2014年4月より現職。2006年4月から1年間ダッカ大学社会科学部女性学・ジェンダー学科に留学、以降バングラデシュの縫製工場で働く女性たちについて研究。主な著書は、『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?―ファストファッションの工場で起こっていること』(合同出版、2016年)、『バングラデシュの工業化とジェンダー―日系縫製企業の国際移転』(御茶の水書房、2014年)。
映画「The True Cost」同時上映しました
上映時間/16:20-17:50
街に溢れ、大量生産大量消費されるファストファッション。その裏側に迫ったドキュメンタリー映画「THE TRUE COST~ファストファッション真の代償~」の上映をしました。