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服育活動レポート

服から始めるアップサイクル

第28回服育ラボ オンライン定期セミナー

第28回服育ラボ オンライン定期セミナー

No.:
第28回服育ラボ オンライン定期セミナー
日時:
2023年8月4日(金)13:30-16:00
場所:
ブリーゼプラザ803・804
配信:
Zoomウェビナー
講演1:
テキスタイルサーキュラーエコノミーとアップサイクル/京都工芸繊維大学 名誉教授 木村照夫
講演2:
色で素材を循環する“Colour Recycle System”/株式会社カラーループ 代表取締役 内丸もと子
事例紹介:
服育が進めるアップサイクルパートナーシップ/服育net研究所 有吉直美
パネルディスカッション:
子ども達の世界を広げるアップサイクル
PDF:

講演1/テキスタイルサーキュラーエコノミーとアップサイクル講師:京都工芸繊維大学 名誉教授 木村照夫

サーキュラーエコノミーとは

サーキュラーエコノミーとは消費者に渡った商品を最終的に捨てるのでなく、循環させてごみを出さないようにすることです。ただ単に廃棄物を回収するだけではなく、適正に処理しそれを見せるトレーサビリティも大切です。
私達も繊維製品のサーキュラーエコノミー実現のため、黒染めなどのお直し文化の再興や繊維to繊維技術の実現で不要になったものの価値を上げてアップサイクルするための挑戦を続けています。
2022年5月には経済産業省が「繊維技術ロードマップ」を発表しました。この中で「革新的な繊維技術、用途拡大に向けた技術」「ウェルビーイングのための繊維技術」と共に「サステナビリティに対応する繊維技術」もあげられています。

環境負荷の高い繊維産業

2019年国連貿易開発会議が「ファッション業界は世界で2番目に汚染を引き起こしている業種である」と発表し、繊維業界に対する視線が厳しくなりました。
服1着作るのに、CO2を25.5kg排出、水は2,300リットル使っているとされており、服を作る時に出る端材をつなぎ合わせると約1.8憶着分にもなると言われています。
国内で新規に供給されている衣類は81.9万トン(2020年)に対し、その約9割に相当する78.7万トンが事業所及び家庭から使用後に手放されると推計されています。家庭から手放された衣類のうちリサイクルされているのは約10.4万トンで、わずか10%程度です。
現在、全世界のファッション業界から発生している繊維廃棄量は年間9200万トンと推定されています。これが2030年には世界で1.5億トンの廃棄量になると言われており、深刻な状況になるのではと心配されています。

サステナビリティとは

サステナビリティとは、1987年に「環境と開発に関する委員会(WCED)が発表した、“Our Common Future”の中での定義を採用された言葉で、国家を主体として「将来のニーズを損なうことなく、現在のニーズを満たすこと」であるとされています。
数年前までは「経済」重視だったのでなかなか進んでいませんでしたが、ここ数年はサステナビリティの大切さが叫ばれるようになり、「環境」重視に世の中が変化してきました。
SDGsについても数年前は知っている人があまりいませんでしたが、今は子ども達を含むほとんどの人が知っていいます。SDGs達成のためにも、サーキュラーエコノミーの実現が重要なのです。

新しい技術と新しい規格・法整備

2000年に循環型社会形成基本法ができ、食品や家電などのリサイクル法は作られましたが、繊維については未だにできていません。なぜなら経済的に見合う出口がなく、事業として成り立たせるのが難しかったからです。
現在、リサイクルを難しくしている混紡素材について、綿とポリエステルを分離するなどの新しい技術開発が進んでいます。
再生ポリエステルの取扱量も年々増えていますが、そうすると今度は不正に再生ポリエステル表示をする企業が出てきているので、それを規制するためのJIS規格の検討が進められています。
また、大量に発生するデッドストックも大きな問題です。販売されることなく廃棄されている衣服は国内では年間10億点と言われており、これは作った量の約1/3にもなります。
世界では、フランスにおいて2020年「売れ残りの衣類廃棄禁止法」が制定されました。

アップサイクルとは

一般社団法人Textile Upcycle Platformでは、アップサイクルを「本来であれば捨てられるはずの繊維系廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること」と定義しています。
注目の高まっている取り組みですが、グリーンウォッシュには気を付けなければなりません。
グリーンウォッシュとは、表面上取り繕うことを意味する「ホワイトウォッシュ」と、環境やエコを意味する「グリーン」を掛け合わせた造語で、あたかも「環境に良い、エコである」と見せかけることです。
グリーンウォッシュを見抜く正しい知識を持つことが求められているのです。

色で素材を循環する“Colour Recycle System”講師:株式会社カラーループ 代表取締役 内丸もと子

「色で素材を循環する」活動の始まり

テキスタイルデザイナーとして繊維の廃棄の現状を知り、このまま作り続けてしまっていいのかという疑問が活動の始まりです。繊維リサイクルの研究をしたいと調べたところ木村先生と出会い、博士課程で繊維リサイクルの研究を始めました。

「色をベースにした繊維リサイクルシステムに関する研究」で学位を取得し、現在は「テキスタイルデザイナー」、「カラーコーディネーター」、「博士(工学)」として仕事を行っています。

この研究内容が現在行き詰まりを見せている廃棄繊維の問題を解決する糸口になるのではないかという思いから起業を決意し、株式会社カラーループを設立しました。

廃棄衣料のリサイクルを難しくしている要因

繊維製品のリサイクル率は26%と、アルミ缶(97,9%)やペットボトル(84.6%)と比べ極端に低くなっています。

廃棄衣料のリサイクルをむずかしくしている要因は様々ですが、素材の観点からは主に下記の3点があげられます。

・さまざまな繊維が混紡、混織されている

・繊維加工技術の発達により、見た目や手触りでの素材判別が困難

・古着ではネームの紛失または退色があり素材判別が困難

そのために繊維製品リサイクル法の制定も難しくなっています。

「工学+デザイン」の新しいデザインシステム開発

これまでも繊維リサイクルは行われていましたが、消費者に興味を持ってもらえるような魅力的なものではありませんでした。

「消費者にとって魅力的な素材」のためのキーワードは「色」だと考え、「工学+デザイン」で新しいデザインシステムを開発するため、廃棄繊維を色分別するための研究を始めました。

研究ではマンセル色相系に合わせた色糸(R、Y、G、B、P、W、Bkに加えてB-2)を組み合わせて様々な試料を作り、粒状、わた状、糸状についてそれぞれ高い好感度、低い好感度になる色の組み合わせについて細かく調べ、廃棄繊維を色分別するための数値化に成功しました。

繊維を「色材」としているので「深い色合い、独特の素材感」を出すことができ、環境負荷の高い脱色や染料を使う必要がありません。

色分別して解繊顔料にしたものに樹脂を混ぜれば成形品を得ることができ、パルプと混ぜれば紙にすることができます。また、色分別したものを綿状にして得られるヤーンやフェルトを用いたリサイクル繊維製品についても取り組みを進めています。

大阪関西万博2025年Co-Design Challengeに採択され、新規開発中のカラフルな板材を用いて会場で使用するにベンチを制作する予定です。

カラーループのミッション

私達のミッションは「廃棄繊維を使ったからこそできる魅力的な素材やプロダクトの提供」、「リサイクル品だから無理に購入してもらうのではなく、素敵だと感じてもらえるモノ作り」、「サーキュラーエコノミーに繋がる価値創造」だと考えています。

様々な企業や団体と協業しながら、取り組みを進めているところです。

服育が進めるアップサイクルパートナーシップ講師:服育net研究所 有吉直美

服育の進めるアップサイクルの取り組みについてご紹介しました。

ユニフォームの未活用生地を福祉事業所でバッグにアップサイクルし、さらに学校で装飾を施すなどのさらなるアップサイクルを行う「バトンバッグ」プロジェクトは、国内での循環を進める「ローカルアクション」が始まっています。

地域での販売を行った学校もあり、徐々に取り組みが広がってきています。

また、京都女子大学 生活デザイン研究所の学生グループ「KUMO」とのコラボレーションでは、彼女たちが考案した服のアップサイクルについてより多くの人に見ていただけるよう情報誌「SORA」や服育websiteに掲載し、関心を持って取り組んでいただける人を増やしていきたいと思っています。

この他、大阪中之島美術館でのアップサイクルの取り組みなど、様々な主体とのパートナーシップを大切にした取り組みを進めています。

パネルディスカッション/子ども達の世界を広げるアップサイクル講師:木村照夫、内丸もと子、有吉直美

子ども達の世界を広げる可能性のあるアップサイクルについて、教育現場で何が求められているのかディスカッションしました。

環境問題やSDGsについて、子ども達の関心は年々高まってきています。情報はあふれていますが、中にはグリーンウォッシュなものもあるのが現実です。

何が本当に大切なのか、何が本当に求められているのか。自分で考え判断できるよう情報を取捨選択し正しい知識を身に付けることが大切なのです。

参加者のご感想

気になっていた事がたくさん知れました。とても興味深く受講できました。今後、授業に取り入れていきます。
「繊維のリサイクル率が悪い」と一言説明するだけでなく、なぜなのか、それについて何ができるのかとても分かりやすかった。
具体的な取り組みの話がたくさん聞けてよかったです。繊維廃材から作る学校教材、ぜひ実現させていただいて使ってみたいです。楽しみにしています。