【熊本】服育セミナー2023 /LGBTQの存在を認識した上での学校教育
- No.:
- 【熊本】服育セミナー2023 /LGBTQの存在を認識した上での学校教育
- 日時:
- 2023年7月8日(土)13:00-16:00
- 場所:
- 熊本城ホール 3階 A1
- 対象:
- 学校・教育関係者
- 主催:
- 一般社団法人九州学校服会
- 後援:
- 熊本県教育委員会、熊本市教育委員会
- 共催:
- 九州服育研究会
- 協力:
- 株式会社チクマ
- PDF:
【専門家からのメッセージ】LGBTQの存在を認識した上での学校教育講師:宝塚大学 看護学部 教授 日高庸晴
かつてないほどLGBTQに関する報道やSNSでの書き込みが増えてきています。しかしその内容はポジティブなものばかりではなくネガティブな内容も多いので、学校の先生方の役割がより大切になってきています。
「親に言えない」と感じている子ども達が圧倒的に多く、家の次に長い時間を過ごす学校で「何かあったらこの先生に話しに行こう」と思える先生が、児童生徒の心の中に一人いるかどうかが大切であり、彼らの支えになり人生を変えていくのです。
1.性的指向と性自認
性的指向と性自認を混同することなく、学校での対応が求められます。「LGBTQ=女子スラックス」のことだと考えている学校もまだあるようですが、可視化されづらいLGBの児童生徒が存在していることを、認識しなければいけません。
約2.2万人の教員を対象にした調査によれば、「クラスに1人~2人のLGBTQの子どもがいると思う」という認識割合はわずか35%でした。教員養成課程でLGBTQについて学んだ経験は1割程度、教員になった後の研修で学んだ割合は4割程度であり、LGBTQについて教師が学ぶ機会が確保されていないのが問題です。
2.生徒指導提要の改正
2022年12月に文部科学省は生徒指導提要を12年振りに改正、性的マイノリティ関する項目が盛り込まれました。生徒指導という範疇でもLGBTQをはじめとする性的マイノリティに関する取り組みが求められるようになったのです。
学校でLGBTQに関する取り組みを是非進めてください。今年度中に取り組みを開始することが難しい場合は、今年を準備期間とし、来年は年間計画にきちんと盛り込んでください。
子ども達からのカミングアウトは以前より増えてきています。その時に間違いのない対応するためにも事前の学びが求められます。
3.不規則発言には毅然とした態度を
学校が直面している様々な問題(いじめ、不登校、自傷行為、自殺念慮、自殺未遂)の背景にLGBTQの児童生徒の存在があるかもしれません。。
児童生徒からのからかいや揶揄するような不規則発言は決して認めないという姿勢のもとに、毅然とした対応が必要です。LGBTQの児童生徒の立場から授業者を見たとき、毅然とした態度で対応してくれていたら「何かあればこの先生に相談にいこう」と思うことができるかもしれません。
授業についても100点満点な授業をしようとしていつまでも始められないよりは、60点でも70点でも始めてみる方がいいでしょう。また年一回の特別な授業をするよりも、日常的に短い時間でも頻繁に発信することが大切です。その言葉に子ども達は安心感を抱くでしょう。
4.カミングアウトは求めない
LGBTQの子どもを持つ保護者130人を対象にした調査によれば、「カミングアウトされる前にLGBTQについて知っていましたか?」という質問に対して、「知っていた」と答えた保護者は「カミングアウトを比較的すぐに受け入れることができた」と回答しています。
5.耳ざわりのよい「ジェンダーレス」という言葉
「小中高の学校生活で、与えられた制服に対する嫌悪を感じた経験割合」について調査で尋ねたところ(10,769人)、圧倒的にトランスジェンダーの子ども達の嫌悪感が高率でした。
2015年4月の文部科学省からの通知には「自認する性別の服装・衣服や、体操服の着用を求める」とあります。
「ジェンダーレス」とは「男女と言った社会的性(ジェンダー)による差違を少しでもなくす」という意味になります。トランスジェンダーの子ども達はより自分が望むジェンダーの装いをしたいと思っていることを、忘れないようにしてください。つまりジェンダーの有り様に一定数の彼らはこだわりを持っていることでしょう。ジェンダーレスという耳ざわりのよい言葉で、求められる内容が変わってしまっていないか、振り返りをしてみてください。また、女子スラックスの導入をしただけでLGBTQ対応をしたつもりになっていないでしょうか?誰でもどの制服でも選べるようにすることが大切なのです。
講師のご紹介
- 日高 庸晴
- 宝塚大学 看護学部 教授
京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。
最高裁判所/司法研修所による裁判官対象の研修や法務省の国家公務員人権研修、人事院のハラスメント研修等の講師を務める。法務省の人権啓発ビデオの監修、文部科学省が 2016 年 4 月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、自治体による啓発教材の監修を多く務める。
NHK「時論公論」「ハートネットTV」などメディア出演多数。
【当事者からのメッセージ】スカートを履いた僕 ~学校生活におけるセクシャリティ~講師:わたる
FTM(女性から男性へ)のトランスジェンダーとして講演活動等を行っているわたるさんから、自身のライフストーリーを通して教育現場における対応の重要性についてお話いただきました。
幼少期から「なぜ自分は女の子なのだろう?」「どうして男の子じゃないの?」と感じていました。小学校に入った時のトイレの色分けや第二次性徴期の自分の体に対して嫌悪感を抱いていましたが、親にも学校の先生にも友達にも言えませんでした。自分でも分からない自分の性に、どう生きていけばいいか分からなかったのです。
学校生活の中で心のよりどころだったのは保健室でした。寄り添ってくれた養護の先生が「いろんな人がいる。あなたは異常じゃない」と言ってくれたことで、大変だった学校生活をなんとか乗り越え生きていくことができました。
高校卒業までは「ボーイッシュな女の子」を演じることで自分を守っていましたが、大学に入り自分を認めてくれる恩師との出会いや、“自分の性”で生きる人たちとの出会いを通して“わたる”として生きる時間が増えていきました。親へのカミングアウトは最大の壁でしたが、両親とも受け止めてくれ性別を変えるための決意をしました。
現在は戸籍も男性となりましたが、結局自分の中の「男」とは何なのだろうと考えます。
自分にしかない“性のかたち”があるのではと思っており、男女やLGBTQではなく「自分だけの性」を生きていきたいと思っています。女性の体で生まれたことも“僕の性”なのです。
学校生活を振り返って思うことは、スカートを履きたくなかった自分に対して「スカートを履け」と言うのではなく「なぜ?」と聞いて欲しかったのだと思います。例え制服でズボンをはくことができなくても、「スカートを履きたくないんだ」と先生に伝えたかったのです。
今も悩みを抱えている子ども達はたくさんいて、自分の中で我慢しながら「折り合い」をつけて暮らしています。制服などのルールや校則が変わり過ごしやすくなることも重要ですが、一番子ども達が求めているのはその時の“思い”に寄り添ってもらうことなのです。
講師のご紹介
- わたる
関西学院大学神学部卒業。在学中より講演活動を開始し、主に教育分野で自治体主催の教員研修や生徒向けの授業を担う。現在は公認心理師として働きながら児童福祉に関わりつつ、関西学院高等部非常勤講師として「ジェンダー・セクシュアリティ」の授業を担当している。ジェンダーやセクシュアリティについて研鑽をつみながら自分の体験を通して発信し活動している。
【DVD上映】教員向け映像教材
LGBTsの子どもの命を守る学校の取組 ②当事者に寄り添うために~教育現場での落とし穴~(文部科学省特選)
参加者のご感想
- 男女とかLGBTQにとらわれず“自分の性”を大切にするという言葉に大変共感しました。
- 潜在的に存在しているはずのLGBTQの生徒達に悪意なく心無いことばを発することがないようにと日々思っていますが、自分の無知ゆえに心ない言葉を発していたかもしれないと反省させられた。
- 教師の言葉、対応が大きく影響する子どもの心、思いについてとてもよく分かりました。相談する子供が来やすい環境づくりを考えていきたいです。