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服育活動レポート

本当のTPOとは ~社会で、学校で求められているTPOを考える~

本当のTPOとは ~社会で、学校で求められているTPOを考える~

本当のTPOとは ~社会で、学校で求められているTPOを考える~

No.:
第12回 服育ラボ定期セミナー
日時:
2010年3月13日(土)
メイン:
本当のTPOとは ~社会で、学校で求められているTPOを考える~
メイン講師:
マッセアトューラオーナー、簿何時クラシックアカデミー事務局長、マイスターファクトリー講師 柳瀬博克
サブ:
伝える衣服、伝わる衣服 ~服から何を感じましたか?~
サブ講師:
服育研究会 有吉直美

本当のTPOとは ~社会で、学校で求められているTPOを考える~講師:マッセアトューラオーナー、簿何時クラシックアカデミー事務局長、マイスターファクトリー講師 柳瀬博克

ビスポークテーラーとしての仕事

今回は大阪でビスポークテーラーとして活躍される柳瀬氏に、TPOをキーワードにお話いただきました。

ビスポークとはお誂えの意味ですが単なるオーダー服ではなく、一人ひとりのお客様とじっくり話をしながらその人のライフスタイルにあったよりよい一着を作り出す柳瀬氏は、いわば服の建築家といったところです。

施主の欲しい間取りを、限られたスペースにパズルのように嵌め込んでゆく設計士もいれば、施主のライフスタイルを聞き、そこから必要な間取りを割り出し、施主の思いをプロのフィルターを通して形にする設計士もいる。前者は家を売る工務店に多い設計士で、後者は設計そのものを生業としている建築家と呼ばれる人たちです。

中学生の頃から服を個人輸入したりオーダーしていたというほど服に思い入れを持ちながらも、大学、就職は流されるまま進んできたと振り返っておられました。その中でも自分の好きな輸入生地を扱っているからと選んだ就職先でも意に反して人事に配属され、悩まれたこともあったそうです。

そんな時、社内で持ちあがった社内ベンチャーに応募し採用されたのが今のマッセアトゥーラでした。(ちなみにマッセアトゥーラの語源は“誂えまっせ”だそうです)

社内ベンチャーといっても会社が仕事を用意してくれるわけでも、お客様を紹介してくれるわけでもありません。柳瀬氏のベンチャーはこれまでのような与えられた枠の中でする仕事ではなく、仕事そのものを自分で作る事から始まったのだそうです。

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様々なTPO

扱っておられる高級オーダー服の中でもそれぞれ相応しい場所は違ってくるのだそうで、今回実際にナポリと日本のジャケットを持って来ていただき、その違いについて分かりやすく説明してくださいました。

手縫いされたナポリのジャケットは着易く、手の温もりの感じられる美しいものだけれどもフォーマルな印象はなく、一方の日本のジャケットは整理整頓された綺麗さはあるけれども面白みに欠ける。つまり同じジャケットでも、カプリ島やアマルフィといったリゾート地への玄関口であるナポリで作られる服はリゾートウエアであり、決してビジネスウェアではないのです。

例えどんなに高価なスーツであっても、柔らかいナポリのスーツをセレモニーの場で着てしまうのは、その場に相応しくないということになります。つまり価格に価値基準をおくと判断を間違ってしまうのです。

また中には柳瀬氏のお店でスーツを仕立てられたお客様が周囲の声を聞き、これまでの自分のスーツに対する価値観を変えられたということもあったようです。

TPOやシーンに合わせて自分で考えて服を着ることが、マッセアトゥーラのコンセプトでもある「着るか、着られるか。」なのです。同じスーツという顔をしていてもビジネススーツもあればリゾートスーツもあるし、作業服としてのユニフォームスーツもあるのですから。

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「自分の思う服を着て来てください」

そんな柳瀬氏は企業の人事にいた頃、会社説明会の際、TPOについてある投げかけを学生に対してされたそうです。

それは会社説明会へ、「自分の思う服を着て来てください」というものでした。

もしも自分の生徒がこう言われてきたらどのようにアドバイスされるか、参加されている先生方にお聞きしてみました。

「やはり無難な格好をしていくように言う」「自由といっても絶対に自由ではない」という意見や、「デザインと色を分けて、どちらかで個性を出すようにしたら」「スーツを始め着るものは普通にバッグや小物で個性を表現」という具体的なアドバイスまで様々な意見が先生方から出てきました。

実は当時柳瀬氏が見たかったのは、自由とはいえどもそこはやはり会社説明会という場なので、それを考えた服装ができるかという点でした。自分で考え、意思を持って着て来て欲しかったし、そこを見たかったのだそうです。

「自由」といっても、やはり規律を守った上でなければなりません。

規律を守った上での自由こそが「個性」となってくるのです。

ルールとマナー

自由と規律を考える中で、ルールとマナーも大切なポイントになってきます。

柳瀬氏はご自分のお子さんにもルールばかりを言わないようにしているのだそうです。ルールはあくまで目的に達するための手段であるのに、ルールばかりを言い過ぎてしまうとそのルールが目的になってしまい、本質を見失ってしまうのではないかと感じておられるからです。

手段と目的、ルールとマナーが今の子ども達には整理されていないのかもしれません。

究極な言い方をすれば、マナーとは人に不快な気持ちを抱かせないためのものです。ルールとマナーを混同してしまうとマナーを守っているつもりが、独りよがりでルールを守っているだけになってしまい、結局はマスターベーションに終わってしまいます。どこに意識を持ちそれを行うのかで、全く意味が変わってくるのです。

ファッションでいうと相手のことを考えていない独りよがりのファッションは、マナーという点から見るとやはり間違っています。

相手のことを考えるということは服を着る時にだけ必要なことではありません。言葉や態度といった、服とはアウトプットが違ったものでも、根本の「思い遣り」の部分がしっかりしていれば、決して間違うことはないのです。

何よりも子ども達に伝えていかなければならないのは、この根本の部分“相手を思いやる気持ち”なのではないでしょうか。TPOを知ることは、相手を思う心を身に付けることに他ならないのです。

柳瀬氏のお客様で、「服を意識して着るようになって、仕事の時間の使い方や人との接し方など、いろいろなことに対して意識を持つようになった」とおっしゃられる方が何人もおられるのだそうです。

一番大切な根本の部分に気付かれたことで、様々なアウトプットが変わってこられたということでしょう。

「服づくり」は「人づくり」に繋がっていくものなのです。

参加者のご感想

生徒と接していて「私」と「公」の区別がなくなっていると強く感じる。「公」の場では人への心遣いが必要でまさしくマナーだと思うが、自分中心でしか判断しない傾向が強くなっていると思う。お話を聞いていて「思い遣り」「気遣い」がますます必要だと感じた。(中学校 家庭科教諭)
つい講演では話を聞いて分かったような気がしていたので、突然質問をされ、自分の考えを言うのは何を言ったらいいのかと、いつも人任せな頭を反省させられました。ついカタいTPOについて規律的な指導をしていたので、相手の心を想う、まだはっきり分かっていない自分ではありますが、少しヒントをいただいたように思い感謝します。(高等学校 家庭科教諭)
TPO、ルール、マナー、そして心を伝える大切さを学ばせていただきました。(中学校 教頭)

講師のご紹介

柳瀬 博克
柳瀬 博克
マッセアトューラオーナー、簿何時クラシックアカデミー事務局長、マイスターファクトリー講師

高校時代からのオーダー服作り経験が土台となり、企業内ベンチャーとしてビスポークテーラーであるマッセアトゥーラを興し、その後独立。現在は大阪西天満にお店を構え、お客様との信頼関係を大切にモノ創りに取り組む。 *ビスポークとは「お誂えの」という意味。ビスポークテーラーとはお客とお店がよく話し合い、創り上げていく注文服店のこと。

マッセアトゥーラオーナー http://www.masseattura.com/

ボイツクラシックアカデミー http://www.boits.org/

伝える衣服、伝わる衣服 ~服から何を感じましたか?~講師:服育研究会 有吉直美

服は私たちの印象を大きく左右します

私たちの印象を左右する要素のひとつとして“服”があるというお話をよくさせていただきますが、今回はそれを実際に目で見て確認してもらう実験を行ってみました。

ちょっと怖い感じの服、まじめな感じの服、楽しそうな感じの服を3人のモデルに着用してもらい、それぞれの印象を先生方に発表していただきました。

いろいろな表現の仕方はありましたが、概ね印象は同じだったようで「怖そう」「きちんとしてそう」「自由そう」といった印象を持たれたようでした。

発表後それぞれのコンセプトを紹介したのですが、印象と同じ内容に服が印象を左右する大きな要素であるということを先生方も再確認されたようでした。

スーツ、シャツという基本コーディネートは同じだったにもかかわらず、デザインや色、素材の違いといった服のディティールでも印象は大きく変わってきます。

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これが全く違う服(Tシャツやジャージなど)だったら、その印象はさらに大きく変わるでしょう。

今回は大人の服で行いましたが、同じことを制服で行うこともできるのではないでしょうか。

違うタイプの着こなし方をした制服の印象を客観的に考えることによって、自分の着こなしについて主観や流行に左右されず、もっと客観的に考えることができるようになるかもしれません。

最後に「メラビアンの法則」を改めてご紹介しましたが、やはり服は自分を伝える大きな要素であるのです。

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