服育で見つめ直す衣服の力/三重大学
- 対象:
- 三重大学(三重県)2年生(教育学部家政科教育コース専攻)
- 日時:
- 2008年7月7日(月)13:00~14:30
- 目的・経緯:
- 今春、三重大学の学生さんから服育について知りたいという問い合わせが私たちのもとへ入りました。卒論に取り組んでいた彼女は、服育リサーチのためわざわざ服育ラボまで足を運んでくれ、私たちの考える服育像や活動の内容について調べていかれました。 今回の講義はその彼女と指導教官の増田先生が、ぜひ他の学生にも外部の人間の様々な取組みを聞く事で刺激を感じて欲しいとの思いから企画されました。
講義までの流れ
まずは今回の講義のきっかけともなった、4年生の生徒さんからこれまでの経緯について説明です。
「服育」ということばとの出会いや、服育ラボを訪問しての感想、そしてそれを後輩たちにも伝えたいという思いなど講義開催に至るまでの経緯について語ってくれました。
今回の講義は家政教育コース専攻の2年生が対象ではありますが、他にも大学院生の方などが講義に参加してくださっていました。もちろん全員服育ということばを聞くのは初めてです。どんな内容になるのか興味津々の視線の中、話を始めさせていただきました。
服育から広がる取組み
これから先生を目指される学生さんたちへの説明ということで、服育についてよりリアリティを持って知っていただければと、活動事例を盛り込んでお話をしていきました。
まずは「社会性」についてです。TPOから始まる服とノンバーバルコミュニケーションについてはこれから社会に出て行く彼らにとってもとても興味深いところだったようです。特に自分のために着る服の役割はもちろん、他人のための衣服(ホスピタリティとしての衣服)という概念には考えを新たにした学生さんも多かったようです。
続いては「環境」です。江戸時代と現代の繊維循環の比較や「もったいない」について、さらにたった8%の衣服しかリサイクルされていない(2001年調査)という報告は彼らにとっても驚きだったようで、改めて衣服の3Rについて考えるきっかけになったのではないかと思います。
次は「環境」とも係わりの深い「文化」についてです。海外の伝統衣装から日本の着物やふろしき等の特徴について説明していきました。中でも着物の特徴をいかした日傘は面白かったようです。
そして最後は「健康・安全」です。“守る”というキーワードを持つこの取組みについては特にアトピーと衣服について関心が高かったようで、「服の繊維が身体を守る」という観点は印象深かったようです。
服育の今後
様々な角度からの服育の取組みを説明させていただいた後、今後の展開について少しお話をしました。
私たちは「服育」という生きる力にも繋がる取組みを、教育の三育である「知育」「徳育」「体育」、そして「食育」などとともに、様々な主体の方々と手を取り合いながら進めていきたいと考えています。
まだまだ小さな取組みではありますが、ここで服育ということばに触れていただいた学生さんたちを通して、将来多くの学校で服育が広がり子どもたちの豊かなこころを育むことに繋がっていけばいいですね。
先生のご感想
- 7月7日、私ども三重大教育学部家政教育コ-スと消費生活科学コ-スでの2年生中心の「被服学概論」の特別講義に「服育」を取り上げ、有吉氏に講義をしていただきました。教育学部の限られた学年の少人数のひとつの講義のために、わざわざ大阪から快くお出かけいただき,社会的な現実も組み込みながら学生に大人の空気を吹き込んでいただいたこと,まずは深く感謝申し上げます。
昨今、「被服学」に関する知識や技術が小中学校および家庭でなされていない現状から、いかにして“社会人として、また教育者として心身共に生きる力を、被服を通して展開できるか”、手探りをしているときに,卒論生との伊藤さんと春休み中模索し論議してたどり着いたのがこの「服育」でした。早速4月に彼女と大阪の(株)ちくま様へ出かけて、有吉様と前田様にいろいろとお話をしていただきました。そのときに、ぜひ本学の学生さんにも聞かせたいと厚かましくお願いしたのが、「服育 織り姫様」の講演に結びつきました。大学生とはいえ20歳未満のまだまだかわいい学生にとって、社会人の有吉様のメッセ-ジはある意味テレビのニュ-スを見ているような表情も伺われました。しかし、後日の感想からは、いつも聞いている身近な私の講義とは格段に違う空気を感じてはくれたようです。少しあこがれの眼差しの学生が「服育」について颯爽と講義をしている有吉織り姫様に見とれながら、服について社会的意義について自信を持ってくれたような気がいたします。
まずは、私の「外の空気を感じて欲しい - 次世代として社会を担う一員になるのはあなたたちですよ!」を少しでも感じてくれたらの意図は成功ということでした。そして、自分自身もさらに、社会に問いかける「被服」を通しての情報やメッセ-ジを提供できるべく「服育 - 衣を纏うことで個人を生かし、さらに社会的にも他人を慈しむ衣を織ることのできる、織り姫や彦星のような人を育む」努力をと思いました。現在私は,専門の研究(3次元人体形状からの衣服設計)を通して得られた情報を http://www.i-designer-web.com/MieUniv/Page1.html のサイトで流しております。大学生だけでなく、家庭科の先生方や高校生にも試していただけたらと、3次元着装シミュレ-ションによるデザイン評価によるアンケ-トやベイシックなワンピ-スの型紙の無料ダウンロ-ドによる提供もしていますのでご利用ください。
「服育」の実践的試みが多方向からしていけたらと。そして、そのためには「被服好き」の方達とのコミュニケ-ションをとることも必要かなと思う日々です。有吉様には、これに懲りずに、また新しい服育の空気を三重大に運んでいただけたらと願っております。
たて-よこ-ななめに「服育」の衣の織りを組み合わせて、さまざまなデザインの「生きる力」を展開していきませんか。今後ともよろしくお願いいたします。
織り姫様への感謝のメッセ-ジとして
増田 智恵先生(三重大学教授、学術博士)
生徒さんのご感想
- 今、服育について注目されているということが分かりました。今まで服を着る目的についてそこまで真剣に考えたことがなかったけれど、今日のお話を聞いて得られるものがたくさんありました。昔の着物はいろいろなものに変化させることができ、すごいと思いました。今の服は着なくなったら廃棄の確立が多いけれど、何かに使えないか考えてみたいと思いました。また、これから服を選ぶ時には審美性だけでを見るのではなく、他の防護性、機能性、象徴性などを考えて選んでいきたいと思いました。とても役にたつ講演でした。有難うございました。
- TPOを考えた服、リサイクルで生まれ変わる服、人にやさしい(守る)服・・・。ひとくちに服と言っても、いろんな機能や歴史を持っているんだなと改めて知りました。毎日、毎朝選んで一日中身に着けている服ですが、私たちは無意識のうちに色や形、素材を見てその日に合ったものを選んでいるのかなと思います。しかし有吉さんがおっしゃっていたように、今に私たちは、自分をよりおしゃれに、可愛く見せたいとか、ファッションにほとんど意識が向いてしまっています。それも大切だと思うけど、服の持つ他の大切な要素にももっと目を向け、毎日服と関わっていけたらいいなと思います。
- 今、「食育」という言葉をよく聞きますが、食育が発展していくように「服育」も世間でもっと話題にして、発展していくといいと思った。服育も生きる力のひとつになると聞いて心に響きました。一番心に残ったのは、衣服は「ノンバーバルコミュニケーションとしての衣服」と「ホスピタリティとしての衣服」の二つの意味があることです。自分だけでなく周りの人にも衣服は影響があるんだなと思いました。