”洗う”を見直そう! ~本当にエコな洗濯とは~
- No.:
- 第13回 服育ラボ定期セミナー
- 日時:
- 2010年7月10日(土)
- メイン:
- ”洗う”を見直そう! ~本当にエコな洗濯とは~
- メイン講師:
- ヱスケー石鹸株式会社 中野慶治
- サブ:
- 衣服に関するトラブル ~クリーニングから安全まで
- サブ講師:
- 服育研究会 有吉直美
”洗う”を見直そう! ~本当にエコな洗濯とは~講師:ヱスケー石鹸株式会社 中野慶治
意外な石鹸の歴史
今回は環境に優しい石鹸を作り続けているヱスケー石鹸株式会社の中野氏にお越しいただき、石鹸と洗濯(衣服)、そして洗濯と環境についてお話いただきました。
石鹸の歴史は紀元前3000年のシュメール文明にまでさかのぼります。8~9世紀にはオリーブ石鹸などがヨーロッパで作られるようになり、庶民の間にも石鹸は少しずつ広まっていきました。
その後19世紀に入ると、天然オイルで作られていた石鹸は塩を使って工業的に作ることができるようになり、石鹸は飛躍的に普及し日本にも輸入されるようになりました。
ちなみに日本に初めて石鹸が持ち込まれたのは1543年の鉄砲伝来と一緒で、当時は肌を洗うためでなく薬として服用されていたようです。
江戸時代庶民の間に石鹸が広まることはなく、むくと泡立つ成分(サポニン)を持つムクロジやサイカチなどの木の実などが洗濯に使われていたようです。
明治維新後、日本で最初の石鹸が横浜で作られようやく庶民の間でも石鹸が使われるようになりました。
しかし戦後、洗濯機が広まるにつれ安く大量に作られる合成洗剤が一気に普及していきました。その当時の合成洗剤というのは「安全性」よりも「汚れをおとす」ことを第一目的にしていたので、濃縮で分解性も悪く、誤飲事故で人が亡くなるなどということもあったようです。
石鹸と合成洗剤の違い
一般的に石鹸は一次分解されるのに1日(究極的分解は約7日)、合成洗剤は30日かかると言われています。
このような問題もあって琵琶湖周辺や霞ヶ浦などの河川、湖の近くでは石鹸運動が広まり、石鹸を使った洗濯というのが進められてきましたが、下水道の普及とともに分解性の低いものも下水処理されるようになると石鹸運動は下火になってしまいました。
しかし1999年に制定されたPRTR法で化学物質の排出を管理して減らしていきましょうという法律では、指定化学物質の中に合成洗剤は必ず入っています。
ちなみに家庭から排出される物質の第一位はパラジクロロベンゼン(衣類の防虫剤等)、第二位がポリオキシエチレンアルキルエーテル(台所用洗剤、液体洗剤)、そして第三位に直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(粉末洗剤)となっているそうです。
合成洗剤というのは石油のあまりもの(ナフサなど)を高圧処理し作ったものですが、石鹸は植物油脂(パーム・ヤシ油、牛脂など)を苛性ソーダで反応させて作ります。シンプルに作るので、シンプルに分解するのです。
ここに、植物かいわれを使った実験があります。合成洗剤を薄めた液体で育てたかいわれは根も葉もほとんど伸びませんでしたが、石鹸を薄めた液体で育てたかいわれは根も葉も元気に伸びています。また合成洗剤の中に含まれる蛍光増白剤も問題です。白いシャツなどを白く見せる蛍光増白剤は、食品衛生法でガーゼやマスクなどには使えないことになっているのに、合成洗剤には含まれていて日々の洗濯で衣類に蛍光物質を塗っているのと同じことになるのです。
実験!水の違いで泡立ちが違う
洗濯の洗浄力を上げるには高めの水温と適量の洗剤での泡立ち(界面活性力)がないと洗浄力はあがりません。
水温や洗剤量を工夫しても実は水自体の中に洗剤を阻害するものがあります。それはカルシウム、マグネシウムなどのミネラル分です。
大阪の水(硬度約50)、埼玉の水(硬度約100)、市販のエビアン(硬度304)、軟水(硬度0)の水をペットボトルに入れ同量の粉石鹸を加えて泡立てる実験をしてみるとよく分かります。
硬度0の軟水では石鹸が100%泡にいかされ水は透明です。一方硬度が一番高いエビアンは白くにごり泡立ちも少なくなっています。大阪と埼玉を比べてみても、やはり硬度の低い大阪の水の方がにごりも少なく泡立ちはよくなっています。
つまり硬度の高い地域ではたくさん洗剤を使わないと汚れが落ちないのです。関西に住んでいた人が関東に引っ越すと汚れ落ちが変わったと感じることがあるのですが、実は硬度の違いが原因だったのです。
本当にエコな洗濯とは
洗濯に使う道具は洗濯板から洗濯機へ。その洗濯機も二槽式から一槽式全自動洗濯機、そしてドラム式へと変わっていきつつあります。
ドラム式は節水という面ではとてもエコなのですが、実は粉石鹸を使えないとしている機種があることで今問題になっています。この点を改善すべく消費者運動などもおこっていますし、石けんメーカーの組合としても電機メーカーに改善の申し入れをすることになっています。
エコな洗濯を目指して様々な取り組みや開発が行われているわけですが、究極的にエコな洗濯とは水だけで洗うことだと思います。
「着たら洗う」から「汚れたら洗う」へ変わらなければいけません。
また水溶性の汚れは水で洗うだけでも7~8割の汚れが落ちると言われていますので、肌着の皮脂汚れやくつ下の泥汚れなどを落とす目的として洗剤を使うことをきちんと判断しなければなりません。
洗いを “見極める”ことによってエコな暮らしは実現できるのです。
参加者のご感想
- テレビコマーシャルについ振り回されている自分に反省。自分の日常生活におおいに反省です。生徒に合成洗剤の毒性など教えているのに正しい洗い方を勉強できたことは大変よかったです。(高等学校 家庭科教諭)
- 合成洗剤が主流になっている今、なぜ石鹸が良いのかとてもよく分かりました。子どもたちにも分かりやすくできるように教材化していきたいと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いします。遠方から来てもとてもよい会でした。有難うございました。(中学校 家庭科教諭)
- 10年前の資料(家庭科)には界面活性剤の種類が取り上げられていましたが、最近は見かけなくなりました。そのことを疑問に思っていましたが、今回のセミナーで課題は何も変わっていないということが分かりました。「硬度0は雨水」これはいろいろな場面で使えると思いました。(高等学校 家庭科教諭)
講師のご紹介
- 中野 慶治
- ヱスケー石鹸株式会社 営業部営業課係長
石鹸、洗剤などの営業販売。受託製造の企画開発に携わる。東京都ではNPO法人を通じて、小学校高学年を対象とした総合学習の支援を行う。その他、環境団体など工場見学、講座なども受け持つ。自身の手荒れ体験をきっかけに合成洗剤問題に関心をもつ。
ヱスケー石鹸株式会社 http://www.sksoap.com/
衣服に関するトラブル ~クリーニングから安全まで講師:服育研究会 有吉直美
衣服のトラブルに巻き込まれないため
衣服に関するトラブルにもいろいろありますが、大きく分けると「購入する時」「着用する時」「お手入れする時」という3つのステージがあげられます。
その中でもトラブルが一番多いのは「お手入れする時」のクリーニングに関するトラブルで、なんと年間9000件ものトラブルが報告されています。
クリーニングトラブルに巻き込まれないためのポイントは「出す時」「返ってきてから」の二つの場面。基本はよいクリーニング屋を選ぶことですが、出す時や返ってきてから自分で確認できることもたくさんあるので、私たち自身も気をつけなければいけません。
次に子ども達の安全を守るということで子ども服についてのデータを紹介しました。
実はいろいろな事故(ひもが遊具にひっかかって動けなくなる、フードがひっかかって首がしまる等)がおきている子ども服なのですが、JIS規定のようなものはまだ日本にはありません。
母親の安全意識調査を見ても外国ママに比べて全体的に低い安全への意識が、特に衣服に関してはより低くなっています。
小さな子どもは自分で服を選べません。親はデザインだけでなく安全についてもしっかりと考えて衣服を選ぶことが大切です。
最後は番外編として性犯罪と衣服との関係についてです。
このようなトラブルに巻き込まれる要因のひとつに、だらしない衣服の着崩しというのもあげられるのではないでしょうか。
昔よりも増加している性犯罪などのトラブルに巻き込まれないための「服の着方」という視点も、子ども達に伝えていきたい大切なポイントです。
参加者のご感想
- クリーニングトラブルばかりについ視点がいきがちだったが母親の意識等、現場(がっこうでの)家庭科の大切さを痛感しました。(高等学校 家庭科教諭)
- 子育て中の服の選び方、その時の子どもとのやりとり、間違っていなかったと安心。保育分野で考えさせてみようと思います。(高等学校 家庭科教諭)