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服育活動レポート

持続可能な社会と学校のカリキュラム ~SDGsに取り組むために~

持続可能な社会と学校のカリキュラム

持続可能な社会と学校のカリキュラム

No.:
第22回 服育ラボ定期セミナー
日時:
2019年8月5日(月)14:00-16:00
セミナー:
持続可能な社会と学校のカリキュラム ~SDGsに取り組むために~
講師:
大阪市立大学 教授 添田晴雄
PDF:

<セミナー>持続可能な社会と学校のカリキュラム ~SDGsに取り組むために~講師:大阪市立大学 教授 添田晴雄

1.持続可能な(Sustainable)とは?

 Sustainableのことを「現状維持(今あることを続けること)」と誤解している人がいますが、Sustainableの意味は変化を受け止めながらもたおれない(ぽしゃらない)ことです。

 世界には様々な問題が溢れていますが、それによって社会がぽしゃらないために大切なのが3つのEEcology=Environment(生態系・環境)Economy(経済)、Equity(社会的公正)」であり、それを支えているのがEducation(教育)なのです。

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2.ESD(持続可能な開発のための教育/Education for Sustainable Development)は環境教育?

 ESD=環境教育だと思っている人がいます。しかしESDとは単なる環境教育ではなく、人権、経済、国際紛争、貧困など様々な問題に関わる教育です。ESDは「現在と将来世代のために、持続可能な開発に貢献し、環境保全及び経済的妥当性、公正な社会についての情報に基づいた決定及び責任ある行動を取るための知識、技能、価値観及び態度を万人が得ることを可能にする」と定義されており、将来世代のために、賢明な選択をする力を育むことこそが教育の責務なのです。

 

3.正解はない

 ESDに既存の「正解」はありません。大切なのはよりよい「解」を求める姿勢です。学びの中で出てくる様々な変化や問題に対し、子ども達にゆさぶりをかけ、一つの側面だけでなく、多角的に考え、自分がどうするべきか考えることが大切です。

 人口の増減曲線を見てみると、増加し続けてきた日本の人口が、これからの100年で半減し様々な問題が出てくると予想されています。人口増加を背景にした経済成長モデルは通用しないでしょうし、教科書にも解決策は載っていません。子ども達は「持続可能性」を頭に置きながら、解決していく力をつけていかなければならないのです。 

 未来のことは教師にだって分かりません。結論を教えるのではなく、判断の仕方を教え、子ども達と共に考え実行していかなければならないのです。上手くいかないこともあるかもしれませんが、微調整する力をつけながら進んでいくしかないのです。

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4.倫理的消費者運動とESG投資

 SDGs17のゴールの中には、その前に取り組まれていたMDGs(ミレニアム開発目標、開発途上国の貧困削減のために掲げられた8つのゴール)に関わるもの、環境問題、社会的公正などに関するもの、そして「つくる責任、つかう責任」など倫理的消費者運動に関するものなど多様な内容が含まれています。

 倫理的消費者運動の大きなきっかけになったのが2013年におこったバングラデシュの縫製工場倒壊事故です。これを機に、ただ安いものを選ぶのではなく、倫理的な価値観でものを選ぼうという動きが大きくなってきました。また、ESGEnvironment, Social, Governance)投資など、短期的な利潤を追求するのでなく、長期的な視野をもったサスティナビリティ企業へ投資しようという動きも起こってきました。

 

5.新学習指導要領

 新学習指導要領の前文に「あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。」とあります。

 カリキュラム(授業科目の一覧表ではない)を作るにあたっては、これまでの学習経験と将来のニーズをふまえて身に付けるべき資質・能力を考え、その上で各教科等の目標・内容を考えていくことが必要です。そしてその内容をしっかりと身に付けるためには、基礎と活用を共に進めながら学んでいくことが大切なのです。

 SDGsは「SDGsに取り組もう!」として取り組むのでなく、「振り返れば様々な取り組みがSDGsになっていた」でよいのです。

 そのためにも学校外の力や知恵も借りながら、17のゴールの複数を組み合わせて考えていくと、自然と社会や未来ともつながりを持つ学びになっていくでしょう。

 

<トークセッション>衣服に何ができるのか? Think Globally, Act Ethically.講師:大阪市立大学 教授 添田晴雄 × 服育net研究所 有吉直美

1.「一本のバナナから」を「一枚の服から」に

参加者の方に「野菜、肉、服それぞれを買う時に何を見て選びますか?」と聞くと、野菜や肉は価格、見た目と共に生産地を確認するのに対し、服を買う時に生産地を確認するという人は少数派でした。
その服の持つ背景について考えていくため添田先生に教えていただいたので「一本のバナナから」です。これはバナナを通して国際問題、人権問題、環境問題などを考える社会科の取り組みで、これを「一枚の服から」として取り組むことはできないでしょうか。

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2.服の背景を知り、「我が事」として考える

服に関する様々なデータを集め紹介しました。「服の供給量は増加しているが市場規模は小さくなっている(単価が落ちている)」、「購入単価は下がっており、2016年は1991年の約6割」「一人あたりの被服履物費への支出額が1987年は5,468円、1991年6,671円、2017年は3,655円とバブル期に比べて半減」「衣服の輸入浸透率は2016年で97.2%となっており、ほとんど衣服は国外で作られ輸入されている」「国内の繊維生産量も減少。その原材料に至ってはほぼすべてが輸入」 そのようにして作られ販売された服の約8割はリユース・リサイクルされることなく廃棄されているのです。
この私たちから遠く離れてしまった衣服を、どうすれば「我が事」として考えていくことができのか?そのためにはやはりサプライチェーン(原材料から生地、縫製、着用そして廃棄までの流れ)を見えるようにすることが大切なのではないでしょうか。

参加者のご感想

SDGsとカリキュラムの関連付けについて悩むところが多かったのですが、今日のセミナーを伺いこれからの方向性が見えてきたように思います。(高等学校家庭科教諭)
衣服の授業でSDGsを取り入れるのは難しいと思っていましたが、今日の話を聞いて取り入れられそうだと思いました。(中学校家庭科教諭)

講師のご紹介

添田 晴雄
添田 晴雄
大阪市立大学 文学研究科 教授

1958年、神戸市生まれ。神戸大学教育学部卒業、神戸大学と大阪市立大学の大学院修了後、大阪市立大学に教員として着任。現在、教授。博士(文学)。

専攻は比較教育学、特別活動論。著書は、『文字と音声の比較教育文化史研究』(東信堂、2019年)など。

1998年に西宮市の呼びかけによって市民・事業者・行政の協働で設立された「こども環境活動支援協会(LEAF)」(現在はNPO法人)に「まちの語り部」として参加、のち、LEAFが「総合的な学習の時間」のカリキュラムづくりを支援し始めたの2000年ころから教育学の専門性を活かしながら活動を展開する。現在、同代表理事。